メネラウスモルフォ

2021年11月ブログ名変更しました。宜しくお願い致します。日々の気になった事をつらつらと。日記というよりライフハックと備忘録メインです。【Twitter】→ https://twitter.com/aoi_sonokawa 

【難解漫画】今更ながらカネコアツシ先生の「WetMoon」を真面目に考察【妄想と狂気】

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最近、どろろのコミカライズ版「サーチアンドデストロイ」を読んだのをきっかけに、漫画家のカネコアツシ先生にどハマりし、関連作品を色々読み漁っていました。

中でも初期作品の「WetMoon」は完成度の高さも然ることながら、かなり内容を理解するのが大変な作品で、レビュー程度の作品紹介ブログはいくつかあるものの、真相に迫った考察サイトは自分が調べた限り見当たりませんでした。

かなりマニアックな作品であるものの、今回何度か読み直し自分なりに考察し、今回記事にしてみました。

 

 

※因みに本記事の下書き自体は、半年以上前に8割方仕上げていました。

スマホのメモ帳に保存したまま、コロナ禍で生活に大きな変化があり、色々精神力が削られ全くやる気が起きないでいました(^^;)

今でも完全昼夜逆転していますが、少しずつ人間らしい生活を取り戻して行きたいです。

 

 

【目次】

 

 

 

 

■ 主人公 佐田の人物像


恐らく23~24歳 新米刑事

幼少期に母親に劇場に置き去りにされ、捨てられる。
その時の心の傷が、後の佐田の人格形成に大きな影響を与える。

迷子で警官に自宅に送り届けられた際、
父親がショックから突っ伏してしまい頼りなかった。
佐田少年を哀れに思った警官が、「お母さんは月へ行った」と優しい嘘を付いて、彼を励ます。
この出来事が佐田の職業選択のきっかけになっている。
実家のテーラーを継がなかった事や、少年時代、夢中で望遠鏡で月を見ている描写からも、幼少期の佐田にとって父親よりも「警官」の方が頼りがいがある人だったと思われる


幼少期の佐田は間もなくして、母は実は月に行ったのではなく、単に自分達を捨てて男と蒸発したのだと知る。
将来警官になれば、もしかしたら母親を探し出せると思ったのかも知れない。
佐田は作中、「人間は月になんか行けっこない」とよく口にする。
これは「大人はよく嘘をつくもんだ」と、幼少期の気持ちを思い出して世の中を皮肉っていると感じる。

 

物語は基本的に、佐田の妄想の中で展開される。

 

 

 

歪んだ性的嗜好

 

母親に捨てられた佐田は、大人になってから母の面影と、事件で偶然出会った小宮山喜和子を重ねる。
そして喜和子に対し狂気を感じるほど執着する。
刑事として喜和子を追ってはいるが、心の深いところで「母親を捕まえられなかった」
自分の心の傷を埋めようとしている。

その執着心は佐田の性癖までも歪ませてしまったようで、喜和子に対し暴行しようとするシーンが見られる。

 

 

 

■米山は実在するのか

 


結論から言うと、米山は実在しないと思う
彼の存在はいわゆる都市伝説みたいなもので、
例えば昔流行った「クネクネ」とか「スレンダーマン」等に近い存在ではないかと思う。

実在はしないが、一部の人間は盲信している。
信じている人が肉付けして他人に話す事で、その話を聞いた人に本当にいるんじゃないか?と思わせる。
逆にミランダ様を信仰している岸刑事や、楽器に打ち込んでいるキャバレーの情報屋など、アイデンティティがしっかりしている人物は、米山の存在に対して懐疑的になっている。
(キャバレーの情報屋に至っては物語終盤はっきり「米山って誰だ?」と言っている)

米山の怖いところは、存在を信じている人が「自分は会った!」と言い張る事だ
考えて見て欲しい。
「自分は鮫島事件の首謀者に会った!間違いない!あの事件はやはり実在していたんだ!」とか言い出す人がいたら、
気が触れていると思うだろう。

米山が存在すると確信する=正気を失ってしまった事のバロメータなのだ
そして鬱病が伝染すると言うように、米山に会ったと言い張る人に接触している内に
ある日突然自分にも見えてしまったら・・・??

その時自分は正気を失っている上、記憶喪失のように妄言に自分で気付けない。
だから皆過剰に米山を恐れるのだ
米山が言う取引完了とは、「自分は狂っている事実」を知ることである。
その行き着く先は死であり、そして他人を巻き込む恐れがある。

 

 

 

『メモ』は存在していたのか

 


これについても、米山の延長線ような物だと思っている。
冷静に考えて、A6サイズくらいのメモ一枚に書き切れる程度の内容で、
腐りきった市政が覆るとは考えにくい。
「学校にテロリストが来たら」と同じくらい、発想が子供っぽいのだ。

それでも、「もしかしたらメモ存在するのかも」と信じている人が一部いて、
「存在する」と言い張る人がたまに現れるとしたら、100%否定は出来ないので、裏世界の人間はピリピリするだろう

※ちょっと話が逸れるが、
一般的にヤクザや腐敗政治等は「裏社会」と呼ぶが、本作では「裏世界」となっている
これは「月の裏側」と掛けていて、
ストーリーの一部が「頭を殴られて死亡した佐田の妄想世界」である事の伏線になっている

そしてメモなど本当は実在しない事に小松は気付いていた
小松は、狂気は伝染し、やがて他人を飲み込む性質がある事を利用して、捨て身で世の中の腐敗を正すことにした。
「メモ」の都市伝説を、裏世界にまだ染まっていない、若い佐田に託したという「肉付けされた都市伝説」を作った。
部下の森はそれを信じ切った。
結果的に、目覚めた佐田も「自分はメモを託された」を思い込み、そこから妄想と狂気の連鎖が始まった。

 

 

 

踊り子ルリの死



キャバレーの踊り子ルリもまた、米山の存在を盲信している一人だった。
彼女の片目は無くなっているが、彼女は自分の心を守るため「米山と取引した結果」と思い込んでいる。

※途中に出てくる、森刑事に金で半ば強姦させている女性が左目から血を流していたので、
彼女がルリか?とも考察したのだが、
わざとなのかどうなのか本作では女性キャラの顔面の描き分けがほぼ無いので、これについては確信が持てなかった。


米山の存在を佐田に信じ込ませたのはルリだった。
既に「自分はメモを託されてる」と信じ切っている佐田は、米山の存在も信じた。
彼女は佐田の妄想を加速させた重要人物であるが、
佐田の性的衝動により無惨にも殺害されてしまう。

佐田は妄想の中で「誰かかドアの隙間から見ていた、そいつが真犯人だ」と信じる。
しかし実際にはルリを殺害したのは紛れもない自分自身であり、
覗いていたのは俯瞰した幼少期の自分だったと知る。

 

 

 

 

佐田の逃亡と森への狂気の伝染

 

ルリ殺害で指名手配された佐田は、スクラップ街に身を隠す。

このスクラップ街で重要な2点のアイテムを見付ける
アメリカ軍のフィラデルフィア実験」の本と
小宮山喜和子殺害当日の新聞記事」である

佐田は実際には、喜和子殺害後に小屋に火を付けて証拠隠滅を謀っていたのだが、
金属片にプラズマが共鳴し引き寄せられ、大規模な落雷が発生し、それによって小屋が壊滅した
喜和子は未来の世界、自分は野球場にテレポートした
とスクラップ街で見た物から都合よく記憶を書き換えた。

この妄想話を聞いた森刑事は佐田の妄想に飲み込まれてしまう。
(アリの出現表現)

森は妻が重度の精神病である事の悩みや、「メモ」の存在を信じていてる為、精神が不安定になっている。


佐田の狂気に飲まれた森は、後に同僚の岸を殺害してしまう
(私の予想だが)森はその後、「メモ」など実際は無い、自分は小松の罠にまんまと嵌っていたのだと気付いたのではないだろうか。
更に奥さんの精神病が手遅れに悪化し、彼は最期自ら命を断った

 

 

 

■「良いもの」は佐田の脳内に本当に埋まっていたのか?

 


これについては本作の重要部分であるにも関わらず、結論が出なかった(申し訳ない)。

当初、自分は「良いもの」とは
佐田が喜和子殺害後に、「自分の脳内にプラズマ受信器が埋まっていて喜和子が回収しに来る⇒また喜和子に会える
と妄想する為のフェイクアイテムだと思っていた。
しかし脳内の「良いもの」がフェイクだとすると、
なぜ佐田が野球場で殴られたのか分からなくなってしまう。

逆に、「良いもの」が本当に存在していたとすると、何処から何処までが佐田の妄想なのか更に分からなくなってくる。

 

何より、人の体内に長期間埋まっていた部品など、洗浄した所でロケットに使用する超精密部品として利用できるのか?と現実的な事を考えてしまう。

 

ただ喜和子の会社にロケット部品の依頼が来ていた事は多分事実であり、ロケットが月に飛んだのも事実である。

 

結局のところ、佐田の妄想と現実の明確な線引きが出来なかった。

 

 

 

 

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

読めば読むほど、どこまでが妄想でどこからが現実なのか頭の中をぐるぐるしてしまう作品です。

全3巻と短いながら、非常に濃厚で長編を読んだような気持ちになります。

何より他の作品もそうですが、カネコ先生の作品は長ったらしい台詞が少なくコマに無駄が無いので、読んでいて気持ちいです。

私は高橋ツトム先生桜井画門先生のファンなのですが、三者共通して1ページ1ページに無駄が無く、読む側の緊張感と作中の緊張感がリンクする(要は引き込まれる)と感じます。

 

 

自分は映画の考察も好きなので(時々Amazonの映画レビューを書いています)

オススメ映画や考察して欲しい作品がありましたらお知らせください。

勿論漫画でもOKです。